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副作用・合併症

卵巣過刺激症候群(OHSS)

自然排卵周期では卵巣に1個(時に2個)の卵胞ができますが、排卵誘発剤を用いた周期では、複数の卵胞が形成されます。とりわけ作用の強い注射剤を連日投与すると、10〜20個の卵胞ができることも珍しくありません。「卵巣過刺激症候群(OHSS)」は、多数の卵胞形成によって卵巣が腫れることによる腹痛と、それに随伴して出現する腹水による腹部圧迫感を主症状とします。
症状の程度は薬剤の種類と投与量、その方の体質(たとえば多嚢胞性卵巣症候群)、薬剤への感受性によって異なります。
症状は、採卵2〜3日後から出現し一週間頃にピークを迎えますが、月経前になるとすみやかに改善してきます。しかし妊娠が成立した場合には、妊卵から分泌されるhCGにより黄体が刺激を受けてホルモンの分泌が続くため、症状は長引きます。

OHSSは排卵誘発剤を使用する人の多くの方にみられる症状ですが、大部分は軽症のため、「日にち薬」で改善してゆきます。身体を動かした時などに腹部に引きつる感覚やチクチクした痛みを感じたり、普段はいているスカートがきつく感じられたりする時は、症状の初期と言えます。

 

□ 軽症の場合

日常生活や仕事は普段通りで結構ですが、運動や性交渉、振動の強いバイク、発汗を伴う行為(長時間の入浴、サウナ、岩盤浴)、喫煙は避けて下さい。

 

□ 中等症〜重症の場合

卵巣が大きく腫れて強い痛みが出現する場合、中等量以上の腹水がたまる場合、尿量が減少してくる重症例(0.5%)では注意が必要です。このようなケースでは血液の濃縮が起こり、血栓症などを引き起こすことがあるからです。胸水までたまるような重症例では長期の入院加療が必要となります。

OHSSを未然に防ぐため我々医師は、薬を慎重に投与しておりますが、予想以上の反応が起こることがあります。

 

流産

自然妊娠における流産は、およそ10〜15%に起こりますが、高度生殖補助医療による妊娠では、これより高い率となります(平均流産率 体外受精:24.6% 顕微授精:26.9% 日本産科婦人科学会2011年報告)。
こうした流産の原因には受精卵の染色体異常や母体側の抗リン脂質抗体、子宮筋腫や子宮内膜症などの婦人科疾患、ウイルス感染症、免疫などが関与しているとされます。
最も頻度の高い受精卵の染色体異常(後述)による流産は、一つの自然淘汰であり、これによる流産を防止する策はないため、多くの場合その経過を見守るだけとなります。受精卵の染色体異常は、卵子の老化によって起こるため、言い換えると母体の年齢が原因ということになります。下表に示されるように、女性側の年齢が進むと流産率は上昇します。

女性の年齢と流産率(%) 日本産科婦人科学会2009年集計

25歳 26歳 27歳 28歳 29歳 30歳 31歳
19.2% 15.1% 16.1% 16.0% 18.2% 17.2% 16.9%
32歳 33歳 34歳 35歳 36歳 37歳 38歳
19.7% 17.5% 21.0% 21.0% 22.4% 25.2% 26.4%
39歳 40歳 41歳 42歳 43歳 44歳 45歳
31.5% 37.5% 40.6% 49.8% 52.7% 61.9% 68.3%

 

□ 流産とその取り扱い

流産の症状には出血と腹痛がありますが、これらは必ず見られる訳ではありません。一方、順調な経過の場合でも、これらは度々出現して患者さんの不安をあおります。超音波検査機のない時代、出血している妊婦は流産の可能性があると考えました。しかし超音波によって胎児の発育を確認できるようになってからは、「出血イコール流産」ではなく、出血していてもほとんどの場合、胎児の発育は順調であり、出血は正常な妊娠経過でも見られる現象であることが分かってきました。
一方、定期的な超音波検査によって妊娠週数に見合った胎児の発育が見られない場合は、たとえ出血がなくても流産(稽留流産)と診断されます。

 ① 化学的流産(化学的妊娠)
 

尿検査で妊娠反応は陽性であるが、子宮内に胎嚢が確認されない妊娠で、しばらく高温期が続いた後にいつもより遅れて月経となります。これは言わば「超初期の流産」ですが、臨床的には流産として取り扱われることはありません。
流産と言っても、少し量の多い月経と違いはありません。流産手術の必要もなく、1周期の休養の後に不妊治療は再開できます。

 ② 臨床的流産
 

妊娠反応に続いて子宮内に胎嚢や胎児が確認されたが、その発育が停止した状態。最も頻度が高いのは、胎嚢は確認されたものの、胎児が確認できない妊娠5〜7週の時期の流産です。
たとえ出血などの症状がなくても、超音波検査にて週数相当の発育が確認できなければ、流産と診断されます。数日〜数週間の後、子宮内容は自然排泄されますが、子宮内に留まったままの「稽留流産」では、流産手術が必要となります。手術を受けた場合は、およそ2周期の避妊期間が必要です。

(注意)
妊娠初期に出血などの症状が出現すると、医師より「切迫流産」と診断されます。切迫という言葉からは、今すぐにでも流産してしまいそうな印象を受けますが、実際にはそうではありません。また流産を止める薬剤が処方されますが、流産の主な原因が胎児の染色体異常である以上、これを治す薬は存在しません。一般に産婦人科で処方されるのは、止血剤や子宮の緊張を緩和する気休め程度の薬であり、効果も安全性も実証されておりません。抗リン脂質抗体などの体質を持っている人にとって止血剤はむしろ流産を促進させる作用がありますので、当院では一切処方しておりません。

 

多胎妊娠

多胎妊娠率は、自然妊娠ではおよそ1%ですが、高度生殖補助医療による妊娠では約4〜5%になります。その内訳は双胎98%、品胎以上2%です(日本産科婦人科学会2011年報告)。

多胎妊娠における最大の問題点は、早産(妊娠37週未満の分娩)に伴う出生児の合併症と後遺症です。早産率は双胎で42%、品胎で85%となり、多くの場合で予定日を待たずに出産となります。胎児が未熟児で生まれた場合には、新生児集中治療室(NICU)での加療が必要となり、双胎で4.7%、品胎で3.5%に視力低下や発達障害などの後遺症が出現します。
多胎妊娠では切迫早産のため出産までの安静入院が必要となることや、妊娠性高血圧症を発症しやすいこと、出産の80%が帝王切開となるという周産期上の大きな問題を抱えます。こうした母体への影響と負担、および早産児(未熟児)の抱える諸問題を考えるに、多胎妊娠は安易に歓迎できるものではありません。社会的には乳幼児虐待の温床になるとさえ言われています。

以前は妊娠率を向上させるために複数の胚を移植しましたが、技術の進歩により妊娠率が向上した現在では、学会により移植胚数に制限が設けられています。胚の数を増やすにつれて妊娠率は、高くなると思われがちですが、実際には3個以上に増やしてもそれ以上には向上せず、多胎妊娠が増えるだけだからです。多胎防止のために移植数を制限することで妊娠率が低くなっても、長い目で見れば、母児にとって望ましいと考えられます。

多胎妊娠になってしまった場合には、妊娠経過を慎重に観察してゆく必要があります。一般の産科診療所や助産院では管理能力に限界があり、多胎妊娠の取り扱いが難しいのが現状です。総合病院であっても未熟児を管理できるNICUがない場合には高次医療機関へ搬送となります。万全を期するには、周産期センターの併設された基幹病院で出産するのが望ましいでしょう。

 

子宮外妊娠(異所性妊娠)

子宮外妊娠は、受精卵が子宮内膜以外の場所で着床してしまう異常な妊娠です。
着床する場所により卵管妊娠、子宮間質部妊娠、卵巣妊娠、子宮頚管妊娠などの種類がありますが、最も頻度の高いのが卵管妊娠(95%)です。着床した胎芽は正常に発育することはできず、着床部位の破綻による出血と腹痛が出現し、重症例では出血性ショックを引き起こすため、緊急手術が必要となります。

高度生殖補助医療では受精卵を子宮内に移植するため、子宮外妊娠は起こりえないと思われがちですが、実際にはそうでありません(発生率 体外受精:1.7% 顕微授精:1.3% 日本産科婦人科学会2011年報告)。これは子宮内に移植された受精卵が子宮外に逆行し、その場所に着床してしまうのが原因と考えられています。
卵管に輸送障害がある卵管性不妊では子宮外妊娠が多いため、過去に子宮外妊娠やクラミジア感染の既往のある方では、より注意が必要となります。
また複数個の胚を移植した場合、まれに子宮内妊娠と子宮外妊娠とが同時に起こる「内外同時妊娠」もあります。この内外同時妊娠の診断は大変困難です。

子宮外妊娠の症状は出血と腹痛ですが、これは妊娠初期にはよく見られる症状のため、これだけで診断はつけられません。定期的に診察を行い、妊娠が継続しているものの、子宮内に胎嚢が確認できない場合に疑われます。 子宮外妊娠は、発見が遅れると重症化し命に関わる場合もありますが、その早期診断は容易ではなく、また有効な予防策もありません。胚移植後、妊娠判定日頃から出血が起こり「生理になった」と判断されるケースでも、子宮外妊娠を起こしている事がありますので、「判定日」には必ず受診してください。

 

染色体異常・先天異常

高度生殖補助医療が受精卵(出生児)に与えうる影響には、「体外培養」や「顕微操作」による人為的な影響と、治療を受けるご夫婦の母集団の持つ影響とが考えられます。

高度生殖補助医療による妊娠では自然妊娠に比べて流産率が高いとされますが(前述)、流産児や出生児の染色体異常および先天異常の発生率は、自然妊娠と差が見られません。つまり卵子を取り出し培養する「体外操作」は、受精卵の染色体異常を増やさないと考えられます。また染色体に異常がない夫婦の場合では、体外受精と顕微授精による受精卵の染色体異常の発生率に差がないとの報告より、「顕微操作」 も受精卵の染色体に影響をおよぼさないと考えられます。

しかし一方で、顕微授精においては染色体異常以外の先天異常や精神発達遅延が増えるとの報告があります。さらに近年、Beckwith-Wiedermann症候群やAngelman症候群などのゲノム・インプリンティング異常症と呼ばれる疾患が見られるとの報告や、胚盤胞移植による一卵性双胎や血液キメラなどの発生が増える可能性が指摘されており、さらなる検証が必要です。
また出生した児の長期的な身体的・精神的発達経過などについても、研究報告の結果が待たれます。

一方、患者さんの背景による影響には女性側と男性側の要因があります。
女性側要因としては年齢が重要であり、加齢により卵子の染色体異常が増加し、それに伴い流産と染色体異常児の出産率は増加します(例:ダウン症)。

(参考)ダウン症児出産率

20歳 25歳 30歳 35歳 40歳 45歳
1 / 1177 1 / 1042 1 / 704 1 / 299 1 / 87 1 / 22

男性側要因としては不妊男性の5.6%に染色体異常が認められ、これは一般男性の0.6%に比して高い頻度です。従来は妊娠をあきらめていた無精子症〜高度乏精子症の場合でも、顕微授精の技術によって妊娠が望めるようになりましたが、男性の性機能に関する遺伝子はY染色体上に存在するため、出生児が男児であった場合、父親から男性不妊を受け継ぐ可能性があります。
しかし現時点では次世代、次々世代などへの影響についての、はっきりとした結論は出されておらず、今後の集計を待つことになります。

(参考)出生時の形態異常発生率

  本邦 国外
体外受精 0.8%(H5〜7年) 2〜3%(自然妊娠と同じ)
顕微授精 0.07%(H6〜7年) 2.6〜3.3%

(参考)5歳時の先天異常発生率(日本受精着床学会2006年報告)

  本邦ARTによる出生児 神奈川県 一般出生児
体外受精 3.1% 2.5〜3.72%
顕微授精 3.72%

(注意)一般に先天異常は、生直後に分からないことも多いため、その発生率は、生後1年の時点では生下時に比べて2〜3倍増加します。

 

□ 重症男性不妊の染色体異常検査

当院では重症男性不妊の場合、希望に応じて男性側の染色体検査を実施しております。

 ● 染色体分染法(保険適応)
 

染色体は22組44本の常染色体と1組2本の性染色体から構成されますが、重症男性不妊では精子に関する遺伝子のあるY染色体の構造や数に異常がないかを調べます。
Y染色体の代表的な異常は、47XXY(クラインフェルター症候群)です。

検査料金:約8,000

 ● Y染色体微小欠失(保険外)
 

Y染色体上には精子形成に関わる遺伝子が存在しますが、重症無精子症で15〜20%、高度乏精子症で7〜10%の割合で、この遺伝子が欠損しているとの報告があります。こうした異常は、出生児に受け継がれる可能性がありますので、必要と考えられる場合や希望される場合には、検査を行います。

検査料金31,500円(税込)

 

採卵に伴うリスク

採卵に伴うリスク・合併症には出血、臓器損傷、感染および麻酔の副作用があります。

 ① 出血
 

採卵は、超音波検査機で確認しながら採卵針を膣から腹腔内に挿入し、卵巣にできた卵胞に到達させて行うため、膣壁や卵巣表面にある血管から若干量の出血が起こります。こうした出血は、頻度としては多いものですが、自然に止血するため大事には至りません。
しかし卵巣周辺はそれ以外にも大血管が走行しているため、万一これらが傷ついた場合には腹腔内出血となり、多量となれば輸血や開腹術による止血操作が必要となることがあります。採卵当日は生体モニターを装着し、終了後にも数時間、慎重な観察を行い、異常がないことを確認してから帰宅していただきます。

 ② 臓器損傷
 

子宮の前方には膀胱、後方には腸管があり、卵巣はこれらの臓器にはさまれて存在しています。採卵に際して安全性には十分配慮していますが、卵巣とこれらの臓器が隣接している場合、損傷する可能性があります。
膀胱を穿刺した場合には一時的に血尿が出ることがありますが、大事には至りません。腸管を穿刺した場合には腹膜炎を起こす可能性があります。
また子宮内膜症を持つ方の場合、採卵の際にチョコレート嚢腫を穿刺すると、付属器炎を起こす可能性があります。
採卵後には抗生剤が投与されますので必ず服用してください。また血尿が続いたり、発熱を伴った腹痛がある場合にはご連絡ください。

 ③ 麻酔の副作用
 

採卵の際には、静脈麻酔(軽い全身麻酔)を行うため、血圧や呼吸の変動がみられることがあります。当院では処置に際しては生体モニターを装着し、安全性の確保に努めています。
麻酔薬の作用は短時間で消失しますが、嘔吐や立ちくらみなどの副作用が残ることがあります。夕方には快方に向かいますので、一日安静にしてください。

またこうした症状が翌日まで続く場合はご連絡ください。
 ④ アレルギー
 

使用する麻酔薬や抗生剤により、アレルギー反応が起こることがまれにあります。過去に薬剤でアレルギーを起こしたことのある人や、喘息、緑内障、糖尿病のある方は、事前に申し出てください。

採卵に使用する薬剤

硫酸アトロピン 麻酔前投与 禁忌:緑内障の方
ドルミカム 鎮静剤  
ソセゴン 鎮痛剤  
ビクシリン 抗生剤 禁忌:ペニシリンショックの方
ボルタレン坐薬 鎮痛剤(採卵後)  禁忌:喘息の方

以上に述べた合併症は、採卵を受けた人すべてに起こるものではありません。
当院では採卵後も十分な経過観察を行い、安全性の確保に努めています。
不安が強い方はスタッフにご相談ください。

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