医療法人平治会 ASKAレディースクリニック

はじめに〜「精子の旅」
受精は卵子一個と精子一匹の間で成立します。しかし実際に精子が卵子と受精するためには、卵子一個に対し精子100匹程度という割合が必要となります。これは卵子を取り囲む卵丘細胞を溶かして卵子内に侵入するまでには多数の精子による共同作業が必要なためです。一度に射出される精子は数千万匹におよびますが、卵管に到達して受精に携わる精子はほんの一部に過ぎません。膣内に射出された精子は膣〜子宮頸管から子宮内腔を通って卵管に入り、最終的に卵管膨大部において卵子を出迎えますが、ここまでのプロセスにはいくつかの関門が待ち受けており、精子のサバイバルが行われるからです。

第1のハードルが「膣」です。膣内は細菌の繁殖を抑えるために酸性に保たれています。しかしこれは精子にとっては適さない環境であり、いち早く子宮内に待避しなければ生存できません。さらに膣は長さにして6〜10センチあり、内腔は細かいヒダ状の構造になっているため、精子にとっては大変広いスペースとなり、子宮口に到達できずに死滅する精子も多いのです。
第2のハードルが膣内に突出した子宮膣部から子宮内に至る通過管である「子宮頸管」です。距離にしておよそ2.5センチのトンネルには粘液が満たされており、細菌の侵入を防ぎます。排卵前後になると頸管腺より透明で粘性に富む「子宮頸管粘液」が分泌されます。精子はいわば魚であるため、液体内しか移動できません。射精された時点で精漿と呼ばれる体液内に存在する精子は頸管粘液に泳ぎ渡る必要があるのです。この粘液が少なく硬い時には精子はその中を泳いで子宮内に至ることができません。
第3のハードルは子宮から卵管への道のりです。子宮頸管の狭いトンネルを抜けた先は「子宮内腔」の広いスペースとなります。卵管に至る卵管開口部は狭いので、ここからうまく卵管内に出られるかは運次第です。このようにして、射精された精子は卵子に出会うまでに数十万〜百万分の1程に減少してしまうのです。

 精子の条件
受精のために精子には以下の4条件が求められます。
 1.精液量
性交後に膣口より精液が出てしまうことを心配する方は多いと思われます。液体である精液には必ずある程度の「漏出によるロス」が生じます。また内壁にある細かいヒダ構造により膣の表面積は大きくなります。射出された精液は子宮口付近に限らず膣内に広がるため、「局在によるロス」が生じます。喩えるなら手に取った乳液を両手に塗り広げてなお手のひらに残った分が有効利用される精液と考えてください。これらのロスを考えると、精子の数や運動率もさることながら、まずは精液量が十分でなければならないことがお分かりになるでしょう。

  2.精子数
前述したとおり、精子は長い道のりを経て数が減少します。市民マラソンのスタート地点は人で溢れていますが、制限時間までにゴールできる選手はほんの一部であることに似ています。

  3.運動率・直進運動性
.運動率・直進運動性
精子には泳ぐための推進力を生み出す鞭毛があります。しかし実際には全ての精子が動いている事はありません。またその動きも直進するものや蛇行するもの、回転するだけで進まないものなど様々です。精子には視覚はなく、子宮や卵管の壁にぶつかりながら進路をとるため、直進することが距離的に最も効率的でロスが少なくなります。また卵子と受精する際にも卵子の透明帯に直進して行かねばなりません。
この他にも精子には受精に際しての「受精能獲得」や「先体反応」などの機能が備わっており、数や運動率だけでは評価仕切れません。

  4.検査に影響を与えうる因子について
禁欲の期間
精子検査に先だっては「2日以上7日以内」の禁欲期間を取ることが理想的です。
この期間が長くなると精子濃度が上昇し、運動率が低下します。

採取後の状態
精子は採取後、時間の経過とともに運動率が低下してゆきます。採取から検査までの時間は2〜3時間を目安にしてください。

採取時の体調
精子は精巣にある精母細胞から精子細胞をへて作られますが、この産生は下垂体からのホルモンにより調整されているため、体調やストレスなどにより影響を受ける可能性があります。心配事があると排卵が遅れるのと同様に、精子の産生も低下することがあるのです。しかし排卵はおよそ一ヶ月周期の生理現象であるのに対して精子の産生はおよそ3ヶ月のサイクルであるため、その影響はすぐには現れません。少なくとも検査をする際の体調やアルコールの摂取が検査結果に直接影響を及ぼすことはありません。
精子の所見はどのような人でも変動がありますので、ある程度の期間をおいて検査を繰り返し行う事が必要です。

精子基本検査
当院ではWHOのガイドラインを基本にして独自の評価を加えております。
 精子検査 正常値
 精液量 
 2.0 ml以上 
 精子濃度 
 2000万/ ml以上 
 総精子数 
 4000万以上 
 精子運動率 
 50%以上 
 精子奇形率 
 正常形態精子30%以上 
 WHO Laboratory Manual, 3rd ed.1992
 当院での精子検査
妊娠に携わる精子は「直進性のある運動精子」であることから、当院では精子数、運動率および直進性から算出した「有効精子濃度」により精子の状態を評価し、治療方針を決定します。
検査結果に異常がある場合には何度か繰り返して検査を行います。
  有効精子濃度=精子濃度×運動率×直進性
有効精子濃度
治療法の目安
 1000万匹/ ml以上 
 自然妊娠可能 
 500〜1000万匹/ ml 
 人工授精が望ましい 
 100〜500万匹/ ml 
 体外受精が望ましい 
 100万匹/ ml以下 
 顕微授精が望ましい 
精子検査は変動が大きいため、一度きりの検査で良悪を判定することはありません。正常な場合にはおよそ6ヶ月、異常な場合には1〜2ヶ月以内に再検査を行います。
この「治療法の目安」は絶対的なものではないため、実際にはワンランク低いステージから治療を開始することにしています。つまり「人工授精が望ましい」という結果であった場合にも、自然なタイミング法からトライします。

フーナーテスト(ヒューナーテスト:性交後試験)
膣内に射精された精子の子宮頸管粘液内での活動状態を調べる検査です。
精子基本検査は採取した精子の体外での状態を調べるのに対し、フーナーテストは体内での精子の状態を観察するのが目的です。たとえて言うなら精子基本検査が「筆記試験」であるとすれば、フーナーテストは「実技試験」となります。基本検査では異常のなかった精子でも、フーナーテストにおいて悪い評価となることがあります。また体内に精子に対する不動抗体である「抗精子抗体」が体内に存在する場合にも結果は不良となるため、その意義は重要です。

 ◆検査の条件
この検査は精子の状態だけでなく、子宮頸管粘液の影響を大きく受けます。つまり粘液に十分な量と粘性がないと正確に判定できません。そのため検査は排卵前後の粘液が増えてくる時期に限られます。フーナーテストは精密検査ではなく、また必ずしも完璧な状態で行える訳ではないので、条件を変えて何度か繰り返して行う必要があります。

・ 排卵時期に一致しており、頸管粘液量が十分であること。
 →粘液量が少ない場合には改めて検査を行います。
・ 性交後、半日以内であること。
 →前日の晩に性交渉を行い、翌日の午前の診察で検査を行います。
・ 性交後、一定時間の臥床時間があること。
 →性交後、すぐに起きあがると精液が漏れてしまうことがあります。
・クロミッドなどの粘液量に影響をおよぼす薬剤を併用している場合には正確に判定出来ないことがある。

 ◆ 検査方法
前日の晩に性交渉を持ちます。検査は翌日の午前の診察で行います。
検査に際しては子宮頸管部の粘液を吸い取るだけですので、痛みはありません。
採取した粘液を顕微鏡で観察し、判定します。

抗精子抗体
抗精子抗体(anti-sperm antibody :ASA)とは精子に対する抗体で、精子を死滅させたり卵子との受精を妨げたりすることで免疫性不妊の原因となるものです。
ASAは精子の表面に多数ある抗原を認識している抗体であり、そのすべてが精子にとって有害であるとは限りません。実際に臨床的な意義があるのは精子不動化抗体と精子凝集抗体の二つであります。
ASAは主に血液検査によってその存在が確認されますが、子宮頸管粘液〜子宮腔内〜卵管液、さらには卵胞液、精液中にも存在するため、受精までのあらゆるプロセスで悪影響をおよぼす可能性があります。ASAはその抗体値が低い人では自然妊娠することもありますが、高値の場合には人工授精によっても妊娠し得ないため、体外受精〜顕微授精に進むケースが多くなるため、不妊の基本検査としては欠かせません。性交後試験不良症例、人工授精反復不成功症例、体外受精での低受精率症例などで検出率が高いとされますが、不妊女性および男性における陽性率は3%と報告されています。

 ASA の作用
精子を攻撃して不動化し死滅させる:不動化抗体
精子を凝集させ運動率を低下させる:凝集抗体
精子の受精に関する機能を傷害する:受精障害

 ASAの検査
ASAの検出方法には結合抗体の有無を調べるイムノビーズ法、MARテストと、その生物活性を調べる精子不動化試験、精子凝集試験があります。臨床的に重要とされるのは後2者により検出される抗体です。当院では精子不動化試験をスクリーニングとして採用しています。

 精子不動化試験
患者血液中にASAが存在した場合、その血清を検査用正常精子と混ぜ合わせると運動率が経時的に低下します。時間毎に精子運動率の変化を測定し、それがどの程度障害を受けたかを示す「SIV値」を算出します。SIV値が2.0以上の場合が陽性です。このことを利用して精子不動化抗体の有無を調べるます。例えばSIV値が5であれば、運動率は「5分の1」にまで低下したことを意味します。
なお抗精子抗体は変動するため、陽性となった場合には期間をあけて検査をしてゆきます。

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