医療法人平治会 ASKAレディースクリニック

抗リン脂質抗体陽性・血液凝固機能異常の方の抗血栓療法について

はじめに
血管の中に血の塊ができることで臓器への血流が途絶えてしまう病気を血栓症といいます。
血栓症といえば心筋梗塞や脳梗塞など中高年の病気をイメージしますが、最近注目されているエコノミークラス症候群などは条件が揃えば若い人にも発症します。

 

とりわけ妊娠中は非妊時に比べて5倍ほど血栓が起こりやすいとされます(頻度0.1〜2.0%)。
妊娠中に見られる血栓症は、流産・死産の原因となる胎盤や臍帯での動脈血栓と、産後に発症しやすい静脈血栓(主にふくらはぎの血管)です。この静脈血栓は時に肺梗塞などの重篤な血栓症を引き起こすことから注意が必要です。

 

妊娠中の血栓症は、様々な要因によって起こりますが、その一つが抗リン脂質抗体陽性と血液凝固異常です。抗リン脂質抗体とは血栓を引き起こす自己免疫で、抗リン脂質抗体症候群とも呼ばれます。血液凝固異常は、血液を固めたり溶かしたりする因子の先天的な欠乏症です。
これらの異常を持つ人は、血栓を作りやすい体質であるため生涯にわたって注意が必要です。

 

こうした検査は人間ドックの項目にもなく、産婦人科でも不育症の人にしか行われないため、その実態はつかめておりませんが、流産や血栓症の既往のない正常な人にもかなりの頻度で異常が見つかるとされます。そのため異常があるからと言って、必ず血栓症を発症するという訳ではないとお考えください。
検査で異常が判明した場合には、妊娠〜出産に際しては血栓を予防するための抗血栓療法を行います。妊娠以外の状況でも条件が揃えば、血栓症を起こす可能性がありますので、以下の注意事項をお守りください。

 

病気で医師の診察を受ける時や入院する時には、検査結果をお伝えください。
 今回の検査結果は、大切に保管しておいてください。

手術や入院により安静臥床が必要となった場合には、静脈血栓に注意しましょう。

航空機などで長時間移動する場合には、水分補給や足の運動を心がけましょう。

高血圧や高脂血症、糖尿病、肥満などの生活習慣病の予防に努めましょう。

喫煙は血栓症を招きますので、やめましょう。

 

抗血栓療法について
  抗血栓療法の適応
 

習慣流産(3回以上の流産を繰り返す状態)あるいは反復流産(2回までの流産)の方のうち 抗リン脂質抗体症候群もしくは先天性血液凝固機能異常のある方。

  抗血栓療法の種類
   

抗血栓療法には抗血小板療法と抗凝固療法とがあります。

抗血小板療法:血小板の機能を抑制して血栓を予防します。

抗凝固療法 :血液凝固因子の機能を抑制して血栓を予防します。

   

妊娠中に使用できる治療薬 妊娠中の使用 ○:可能 ×:不可能

   
抗血小板療法 アスピリン
  ○  
パナルジン
  ×  
抗凝固療法 ヘパリン
  ○  
ワーファリン
  ×  
   

ワーファリンには催奇形性があるため妊娠中は使用できません。

  妊娠成功率
   
  アスピリン単独 アスピリン+ヘパリン併用
抗リン脂質抗体陽性 50〜60% 80%
血液凝固異常 50〜60% 80%
   

アスピリンとヘパリンのどちらを使用するかは医師と相談してください。

  その他
   

漢方療法
 柴苓湯(サイレイトウ)は自己抗体を低下させる働きがあります。
 抗リン脂質抗体陽性の方には 服用をお勧めします。

  抗血栓療法の治療方針
   
低用量アスピリン療法
  アスピリンとは
   

アスピリンとは、解熱鎮痛剤であるバファリンのことですが、これを毎日小量ずつ服用し続けると、血小板の凝集が阻害され、血液が凝固しにくくなります(抗血小板作用)。この作用を利用して狭心症、心筋梗塞、虚血性脳血管障害における血栓の予防に使われています。

しかしながら不育症に対する適応はないため、保険適応とはならない場合があります。

  服用方法
   

開始時期 妊娠後もしくは排卵後よりアスピリン81mg錠を連日服用

終了時期 およそ分娩の1〜2ヶ月前まで(医師が決定)

 

アスピリンの服用は、妊娠の判明後すぐに開始となります。しかし妊娠に気づくのが遅れることがあるため、当院では超音波検査により排卵日を予想してタイミング法を行い、排卵後より服用を開始します。

  副作用・合併症
   
1. 今のところ胎児の催奇形性などの影響の報告はありません。
2. 妊娠の後期の服用により胎児の動脈管が収縮して胎児循環持続症となる可能性が指摘されています。
3. 出血傾向となるため、流産や切迫早産、胎盤異常、分娩時の出血量が増える可能性があります。こうした出血が多量におよぶと、輸血が必要となる場合があります。
4. 長期の服用で胃粘膜障害を起こす可能性がありますので、空腹時の服用は避けて下さい。
5. 月経量が増える可能性があります。
6. 服用中は手術や抜歯などの出血を伴う処置は受けることができません。

 

ヘパリン療法
  ヘパリンとは
   

ヘパリンはその強力な抗凝固作用を利用して、血栓症などの治療や人工透析、心臓手術の際に用いられる注射剤です。アスピリンより強力で、使用中には血液は凝固しません。

  適応基準
   

下記の条件を満たす場合、ヘパリン治療は保険適応となります。

これを満たさない場合には自費診療となります。

1. 血栓性素因(先天性アンチトロンビン欠乏症、プロテインC欠乏症、プロテインS欠乏症、抗リン脂質抗体症候群)などを有する方。
2. 深部静脈血栓症、肺血栓塞栓症既往のある方。
巨大血管腫、川崎病は心臓人工弁置換術後などの方。
   

※抗リン脂質抗体症候群の診断は国際基準に従います。すなわち「抗カルジオリピンIgG、
IgM抗体、抗カルジオリピンβ2GP1抗体、ループスアンチコアグラントのうち、いずれか一つ以上が陽性で、12週間以上の間隔をあけても陽性である場合」をいいます。

現在のところ抗PE抗体、抗PS抗体は抗リン脂質抗体陽性には含まれません。

  使用方法
   

妊娠の確認後(できれば子宮外妊娠を除外してから)より、「ヘパリンカルシウム皮下注用5000単位/0.2ml モチダ」を1日2回の注射(自己注射)を開始し、妊娠の経過を観察しながら、妊娠中期〜後期(36週頃)で終了します。

  副作用・合併症
   
1. 使用中は出血傾向となるため流産や切迫早産、胎盤異常、分娩時の出血量が増える可能性が あります。こうした出血が多量におよぶと、輸血が必要となる場合があります。
出血が多量におよび対処が遅れれば重篤な転帰(死亡)となる可能性があります。
2. 注射部位に皮下出血、紫斑、硬結、炎症、かゆみが生じることがあります。
3. ペパリン起因性血小板減少症 ヘパリンの使用により血小板が減少し、脳梗塞、肺梗塞、深部静脈血栓などの血栓症を起こすことがあります。(頻度0.5〜5%)
4. 肝機能障害 AST(GOT)、ALT(GPT)の上昇を起こすことがあります。(13.2%)
5. 骨量減少 ヘパリンの長期投与により骨量の減少が報告されています。(0.3%)
6. 胎児への薬剤の影響 妊娠中の投与に関する安全性は確立しておりません。
7. 治療中は手術や抜歯などの出血を伴う処置は受けることができません。
  ヘパリン治療に関して以下の点をご了承ください
   
1. ヘパリンの自己注射に伴うリスクやトラブルについては、自己責任となります。
2. ヘパリンを使用している場合、ハイリスク妊娠となるため個人の産院や助産院では分娩できません。妊娠3ヶ月に入るまでは当院で管理しますが、その後は基幹病院か周産期センターにご紹介いたします。
3. 妊婦に対するヘパリン使用の歴史はまだ浅いため、現時点では予見できない合併症が起こる 可能性があります。ヘパリンは胎盤を通過しないため、胎児への影響はないとされますが、 安全性については今後の検証を待たねばなりません。

  料金
   

習慣流産に対するヘパリン在宅自己注射の使用は、2012年1月より保険適応となりました。

「ヘパリンカルシウム皮下注用5000単位/0.2ml モチダ」の薬剤費(1ヶ月)

    《保険診療の場合》
   

(1本420円×1日2回注射×30日+在宅自己注射指導管理料8200円+再診料、加算)×3割自己負担+注射針セット(針1本、消毒綿、絆創膏)3000円+針回収ボックス200円

1ヶ月合計 約15,000円

    《自費診療の場合》
   

当院で定められた料金設定により算定されます。

1ヶ月合計 約35,000円

    ※ヘパリンの中和剤であるプロタミン(1本600円)は、ヘパリン開始時にのみ処方されます。
ヘパリンの自己注射方法
  用法
   

ヘパリンカルシウム皮下注用5000単位/0.2ml モチダ

1回1本0.2ml(5000単位)を腹部もしくは大腿部の血管の無い場所に

1日2回(12時間おきに)自分で皮下注射する。

  手順
   
1. 手を洗ってから注射器を取り出し、26ゲージの注射針をセットします
2. 注射部位を消毒綿で消毒します
3. 皮膚をつまみ上げて、皮下に注射(筋肉注射はしないでください)します
4. 出血が止まるまで圧迫止血(揉まないように)してください
   
注射の時間が数時間前後することは問題ありませんが、できるだけ定刻にしてください。
入浴直後は注射を避けてください。
穿刺部は「青あざ」が多数できますので、注射部位は毎回変えてください。
右下腹部→左下腹部→右太もも→左太もも のようにローテーションしてください。
使用後の注射器・針は針回収ボックスに入れてアスカに持参してください。
絶対に家庭ゴミに出さないでください。
使用中は出血を招く行為(手術、歯科処置、針治療、危険な運動)を禁止します。

  緊急時の対処
   
ケガなどにより出血した場合には圧迫止血を行い、すぐに担当医師に連絡してください。
緊急手術が必要な場合には「ヘパリン使用中」であることを必ず医師に告げて下さい。
出血が止まらない場合には、ヘパリンの中和剤である「プロタミン」を使用します。
プロタミンは医師の判断で使用しますので、鞄などに入れて大切に常備してください。

 

 


習慣流産に対する抗血栓療法の同意書

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習慣流産に対する免疫療法のご案内
  免疫と流産
 

免疫とは身体を守るための防御力ですが、外部から侵入するウイルスや細菌、身体の内部に発生する癌細胞に対する働きだけでなく、妊娠した際には胎児に対する作用も持ちます。流産と免疫の関係については、過去にはHLAタイピングや夫婦間リンパ球混合培養検査により夫婦間の免疫認識に異常がみられる「夫婦間免疫不適合」という考え方があり、そう診断された場合、妻に夫のリンパ球を接種する治療が行われてきました。しかしその効果については、大規模な臨床試験にて“有用がない“という認識となっております。

   

胎児の成分の半分は母親由来、半分は父親由来ですので、胎児は母体にとって免疫的には異物として扱われ、攻撃を受ける可能性があります。従って妊娠を継続するためには、胎児を免疫から守る何らかの免疫が存在すると考えられているのです。最近では免疫的な流産の原因は夫婦間の免疫の問題ではなく、母児間の免疫の機能不全が原因と考えられています。一通りの検査で異常のみつからない「原因不明不育症」においては、こうした免疫異常がその原因になっている可能性が指摘されています。

  免疫療法とは
   

流産を繰り返す婦人に「免疫賦活剤」を投与することで、母体の胎児に対する免疫的な認識力を高め、胎児を流産から守るという治療法です。
しかしこの治療法に対しては世界的に一定な評価がなく、統一された方法もありません。
日本では各施設が独自の考えで実施しているのが現状です。

   

免疫にはリンパ球T細胞とB細胞によるものがありますが、これらは外敵(抗原)を認識してから、それに対する攻撃を開始します。インフルエンザのワクチンを受ければ免疫ができ、感染を防げるのはこれらの免疫の作用によります。
また免疫担当細胞には他にNK(ナチュラルキラー)細胞があります。これは相手を認識することなく攻撃をするのが特徴です。このNK細胞の攻撃力が高い場合に流産が起こりやすいとされています。免疫療法とはある種の免疫賦活剤を投与することにより、NK細胞の働きを抑え、流産を予防しようとする治療法です。

  当院での免疫療法
   

免疫療法に対しては現在のところ統一された治療法がなく、施設毎に独自に行われているのが現状です。こうした状況を勘案し当院では、以下のように対処しております。

   

夫リンパ球による免疫療法については、世界的に評価が否定されているため、現在は行っておりません。輸血と同じ扱いになるリンパ球移植は、副作用の面からも問題があります。
現在はピシバニールという免疫賦活剤を使用しております。このピシバニールは、元々癌に対する治療で併用される免疫療法の一種です。身体の免疫力を高めることにより癌細胞を攻撃するのがその作用機序です。習慣流産に対しては、母体による胎児の認識力を高めることで、NK細胞から胎児を守る免疫力を高め流産を防ぎます。

  免疫療法の適応
   

免疫療法を実施する人

・NK細胞活性が高い人(42%以上)

・流産を3回以上繰り返すが、検査で原因が判明しない人

   

免疫療法を受けることができない人

・他に流産の原因が判明している人

・自己免疫異常(抗核抗体陽性、抗リン脂質抗体陽性)のある人

  免疫療法の適応
   

妊娠前に1回、妊娠初期(妊娠4〜5週)に1回、ピシバニール0.2KEを注射

  副作用
   

・発熱や全身倦怠感が起こります。

・注射部位に発赤や硬結、掻痒感などの局所症状が出ることがあります。

・本胎児への影響の報告は今のところありません。

  料金
   

免疫療法 1回15,000円

 

 


免疫療法についての説明と同意

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