第一話「ルナルナコラム」 |
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皆様、はじめまして。私は奈良市にあるASAK(アスカ)レディースクリニックで、不妊と不育の治療を行っている中山雅博(なかやま まさひろ)と申します。この度、ルナルナのマンスリーコラムを担当することになりました。 初回である今回は、お決まりの自己紹介から。ただしどうでもよい個人情報ですので、読み飛ばしてください。 不妊治療に携わって15年。この領域に足を突っ込んで抜けなくなった経緯は、「この国の少子化を食い止めるのはオレだ」といった使命感とは無縁で、ひとえに必要に迫られたから。産婦人科の過酷な労働が引き金となった(?)自らの男性不妊を先輩に相談したのがきっかけでした。 ところがさほど手ほどきを受ける間もなく、頼りの先輩の転勤が決まり、大学病院の不妊外来を任されることに。ちなみにこの先輩は現在、医療を題材にした漫画を執筆され、テレビドラマ「Drコトー診療所」の監修としてもご活躍の方。「そりゃあその方が、よほど楽しいわな」と我が身の非凡を嘆きつつ、見よう見まねの診療開始。 「日陰の4診」と呼ばれる不妊外来は、同僚の医師も近づかない外来の孤島。 とにかく「エライこっちゃ」と奮起したものの、当時は胚培養士と呼ばれる専門スタッフもおらず、病棟の片隅にある培養室に一人引きこもる毎日。今思えば、なんともつたない治療内容でした。当時の患者さん、ゴメンナサイm(_ _)m。その後、医療崩壊の始まった大学病院での奉公を終え、医局を飛び出して現在のクリニックに。名医でもゴッドハンド(神の手)でもない私ですが、患者さん目線の「納得して安心できる医療」を目指して、日々患者さんと共に悩んでおります。 そんなフツーの医師による、フツーの皆様(失礼)のための、フツーでないコラムを目指してゆきたいと思いますので、ご支援いただくと嬉しい限りです!
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第二話「排卵と産卵」 |
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我々は自分のカラダの仕組みについて、間違った理解をしていることが少なくありません。とりわけ妊娠にかかわる情報にはなぜか迷信めいた噂話がチラホラ。そこで今回のお題は、誤解ランキング・ダントツ1位の「排卵」です。 排卵と妊娠の仕組みについては、学校の授業で教わった記憶がありますが、性周期と子宮内膜の変化を描いたイラストを見て私自身は「?」の連続でした。実は産婦人科医師になって初めて理解できた事なども多く、あの授業で患者さんが理解できないことは、むしろ当たり前だと思っています。 さて皆さんの「卵」に対するイメージは、どのようなものでしょうか?ほとんどの方はニワトリの卵を連想しますよね。それ以外ですと、ウズラの卵やタラコにイクラ、あとはカエルの卵くらいでしょうか。しかしこの中に我々ほ乳類の卵は、ありませんよね。そうなのです。ほ乳類の卵は、スーパーに売っていることもなければ、理科の実習で観察することもないのです。 「排卵していれば、卵管も通っているのですか?」 排卵とは、卵巣に育った卵胞という袋の中にある卵子が、卵胞の壁を破ってお腹の中に飛び出す現象を言います。卵子が卵管を通って、子宮を通過して膣から体外に出て来ることを意味しているのではありません。 受精した卵子は子宮内膜に着床しますし、受精しなかった卵子は、細胞として生きられる限界を過ぎると、消滅してしまうため、月経の時に出て来ることもありません。
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第三話「卵子の質」 |
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前回に続いて、卵子のお話し。 細胞質の役割は、細胞内外にある栄養素を原料として、細胞活動に必要な材料を作ることです。こうした営みには原動力が必要ですが、これは細胞質内にあるミトコンドリアという発電所が作り出します。ここでの発電量が満たされないと細胞活動が低下し、質の低下につながることが最近の研究で分かってきました。 このように細胞質も核も卵子の質を左右していることが分かりましたね。なんだか食事療法の出る幕がないような気配ですが、細胞質と核にエールを送る方法はあるのでしょうか??この続きは次週でね。
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第四話「卵子の染色体と妊娠力」 |
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卵子の質を決めるのは、細胞質と核のチカラですが、卵子も身体の細胞である以上、加齢による影響を免れません。 学会が集計している不妊患者さんを対象とした体外受精などの高度生殖医療の成績(2008年)によると、女性の年齢別にみた妊娠率は、25歳:37% 30歳:35% 35歳:32% 40歳:21%と年齢が進むにつれて低下し、流産率は、25歳:17% 30歳:17% 35歳:21% 40歳:34%と上昇し、妊娠力は年齢に密接に関連しているということが分かります。一方、この傾向は男性側には見られません。 流産の原因を調べると、その多くが胎児(受精卵)の染色体異常であることがわかります。染色体は身体を作る設計図なのですから、これに誤りがあっては大変です。実はこうしたミスは、卵子が作られる段階で起こることが多いのです。これはどういうことでしょうか? ヒトの細胞には23組46本の染色体がありますが、この半数は父(精子)から、そして半数は母(卵子)から持ち寄られたものです。精子と卵子は、おのおの元となる細胞が減数分裂することにより作られます。この減数分裂は、たとえるなら全23巻(それぞれに上巻と下巻がある)の百科事典を各巻1冊ずつ取り分けて2個の段ボール箱に仕分けする作業の様なものです。 減数分裂の仕上げは排卵の直前に行われるのですが、長らく出番が回ってこなかった年季の入った卵子では、仕分け作業にうっかりミス(これを染色体の不分離と言います)が増え、辞典の数が合わなくなります。こうしてできた不良品の卵子からできる受精卵も不良品となりますので、妊娠に至らないか、もしくは流産してしまうという訳です。
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第五話「細胞質」 |
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前号では卵子の染色体と妊娠力についてお話ししましたが、今回は細胞質について掘り下げてみましょう。細胞質は言わばカラダをつくる化学工業地帯ですが、その中で発電所としての任務を担っているミトコンドリアに注目してみます。我々の生命活動の全ては個々の細胞の活動です。そしてそれにはエネルギーが必要ですが、これを作り出すのがミトコンドリアの仕事なのです。 実はこのミトコンドリアは、自前の遺伝情報を持ち増殖する独立した存在。つまり細胞内に住み着く寄生虫(パラサイト)なのです。病原性を持つウイルスの場合は、細胞に侵入してテロ活動を引き起こしますが、太古の昔より共生してきたミトコンドリアは、宿主にとっては無くてはならない存在なのです。高等な生命体であるはずの我々も、この寄生虫の力がなければ生きられないとは、なんとも思いは複雑です。 最近の研究ではミトコンドリアのDNA配列に生じる異常が、生活習慣病からうつ病など、多くの疾患と関連していることが分かってきました。長寿の人に見られるDNA配列も発見されているというから驚きです。 「な〜んだ、年には勝てないのか」というため息が聞こえてきますが、そうでもありません。ミトコンドリアを少しは応援することができそうなのです。 その助っ人の名前はL-カルニチン。L-カルニチンは、主に肉類から摂取する栄養素で、ミトコンドリアでの発電の原料となる脂肪酸の取り込みを介助します。以前よりそのダイエット効果が注目されていましたが、卵子の妊娠力に係わっているとの研究報告がなされ、不妊治療の分野でも期待されているのです。
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第六話「褒めのテクニック」 |
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ここまで連載してきて今更なのですが、コラムの内容が硬すぎて私らしくありません。そこで今回は、お医者と上手に付き合うためのお役立ちスキルをお教えしましょう! それでは「褒めのテクニック」についてレッスンしましょう。
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第七話「運」 |
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今回は「運」についてのお話し。運の悪い方、必読です。 一体なぜ今までできなかったのか、そしてなぜこのタイミングで妊娠したのか??? それに対する答えは誰にも分かりません。ひとつ言えることは、神様はイジワルだということです。 不妊治療をしていると、妊娠には「運」が必要だと思うことが度々あります。 結婚して10年で妊娠したとか、不妊治療をやめたら妊娠したという話は実際にあります。生殖能力については、解明されていないことばかりで、生命の誕生は神秘そのものです。だから妊娠しないのは、ご主人にもあなたにも責任はなく、単に運が悪いだけということもあるのですよ。そう思えるようになれば、肩の力も抜けて、ベビ待ちできるのでは。でも運の悪い人は、ご注意を!どこかで運を無駄遣いしてはいませんか?そしてこれから妊娠を考えている人は、くれぐれも宝くじは買わないようにネ。
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第八話「月と女性の不思議な関係」 |
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深まる秋、夜空に浮かんだ名月を見上げながら、今回は月と女性の不思議な関係についてお話ししましょう。 月には引力以外にも月の光そのものによる影響もあるようです。 ヒトでは睡眠に関連するホルモンであるメラトニンの分泌が光により調整されており、概日リズムが作られています。そのため夜勤の多い女性では、この分泌リズムが狂い月経不順を起こしやすいという報告があります。 一方、男性への影響は、月を見てオオカミに変身するくらいでしょうか(笑)。
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第九話「マイナス思考で妊娠力UP」 |
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UMOO会員の皆さんはプラス思考の方が多いかと思いますが、今回は「マイナス思考で妊娠力UP」というお話。 では妊娠力についてはどうなのでしょう。結論から先に言うと、少なくとも「卵子の質」を改善する食べ物は、ないと思って下さい。以前にもお話したとおり、妊娠力は卵子の質で決まりますが、質の低下は加齢現象であるので、何かを食べたからと言って簡単に若返りできるものではないのです。 植物性エストロゲン作用を持つ食品が不妊に良いという話がありますが、科学的な根拠は乏しいです。むしろ過剰摂取で排卵が遅れたり、ホルモンバランスが崩れたりする可能性もあります。 そこで登場するのが、「マイナス思考」なのです。このマイナス思考とはデトックス、つまり有害な物を摂らず、排泄させるという考え方。いくらカラダに良いことをしても、悪いことが蓄積しているのであれば意味がありません。 実際のアンチエイジング医療では、補充療法とデトックス療法が行われています。具体的な話については次回となりますが、それまでにあなたの生活環境についてマイナス思考で見直ししてみましょう。ただしご主人のお小遣いマイナスはダメですよ。
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第十話「マイナス思考で妊娠力UP」の続き |
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前回の「マイナス思考で妊娠力UP」の続きです。 「水道水」の残留塩素は、発がん性のあるトリハロメタンの温床になり、「アルミニウム」には過剰摂取とアルツハイマー病の疫学的調査報告があります。また「IH調理器」などの家電から発生する電磁波の人体への安全性の検証は不十分です。「カップ麺」のスチロール容器からは環境ホルモンが溶出し、インスタント麺の加工に使われる油脂には不妊との関連もあるトランス脂肪酸や様々な保存料が添加されています。 これらはほんの一例に過ぎませんが、我々の日常には人体に対して悪影響を及ぼす可能性のあるものがあふれています。文明社会は、利便性と引き替えに大きな犠牲を払ってきました。元の生活を取り戻そうと思うなら、無人島生活で生活するしかないのです。我々がまず取り組むべきことは、メディアで広告されている健康に良いと唱われているサプリを摂取することより、生活に潜む有害な事から身を守ることではないでしょうか? 「妊娠力」についても同じことが言えます。妊娠力低下の最大の原因は、加齢です。妊娠力を高める可能性があるとすれば、それは卵巣の老化を食い止めることに他なりません。長生きできる生活習慣にこそ不妊の改善にも繋がるポイントがあるのではというのが私の持論です。 その具体的方策については、また皆さんにお会いした時にでもお話しさせていただくとして、私のコラム連載は今回で終了となります。今までお付き合いいただき、ありがとうございました。それではさようなら。
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