自己抗体について
身体に細菌などの外敵が侵入した場合に作られる“身体を守る免疫抗体”とは異なり、自己抗体は“身体の臓器を攻撃してしまう抗体”で、これにより引き起こされる疾患を総称して“自己免疫疾患”と言います。
自己抗体には様々な種類があります。膠原病や甲状腺疾患をはじめ多くの疾患で自己抗体との関連性が判明しており、不妊症領域においては抗核抗体、抗精子抗体や抗リン脂質抗体などが重要です。
抗核抗体(ANA)について
自己抗体の代表格である抗核抗体はもともと全身性の多臓器疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病を調べるための検査項目ですが、当院においては不妊検査として位置づけています。
抗核抗体の強さは陽性限界となる希釈倍率により表示されます。具体的には40倍以上が陽性となり、80倍、160倍のように倍々に段階表記されます。
40〜80倍の弱陽性の頻度はかなり高く、健常人の30%が40倍、5%が160倍を示すとされます。つまり病気でなくても陽性となる偽陽性率の高い項目です。陽性であってもほとんどの人は生涯にわたって自己免疫疾患を発症することはありません。
不妊症と抗核抗体
抗核抗体と不妊症の間に直接的な因果関係は証明されておりません。抗核抗体陽性の方でも無事に妊娠出産されている方は大勢います。しかしある特定の染色パターンを示す抗核抗体の場合、受精障害の原因になるという報告があります。実際に体外受精を行うと卵子の中の核小体が多核化してしまうケースを経験します。
また抗核抗体陽性を示す前述のSLEでは習慣流産や血栓症を繰り返す“抗リン脂質抗体症候群(APS)”を合併している方がおよそ2割いるとされます。
このAPSは不妊症、不育症の原因となりえることから、抗核抗体検査はAPSを含む膠原病のスクリーニングとなり得ます。また体外受精などの反復不成功症例ではAPSが高い頻度で陽性を示すことが知られています。
抗核抗体陽性の取り扱い
(内科的取り扱い)
スクリーニングで160倍以上の抗体価となった場合にはSLEおよびAPSに関連した自己抗体の検査を追加します。抗核抗体が陽性であったとしても自己免疫疾患を発症していなければ内科的治療を行うことはありません。定期検査を行って経過観察となるのが一般的です。
(不妊症での取り扱い)
抗核抗体が陽性であったとしてもそれだけでは不妊症の主原因と断定することはありません。抗核抗体と不妊症の直接的な因果関係はありませんので、検査の主たる目的はAPSのスクリーニングとなります。
抗リン脂質抗体が陽性となった場合には、流産予防のための抗血栓療法を検討します。
不妊治療の一環として副腎皮質ステロイド剤を服薬して抗体価を低下させる治療にはエビデンスが乏しいとされます。ステロイド剤はその副作用の点からも漫然とした服用を続けることは避けるべきです。