院長の今月のひとこと

2021年9月15日

今日は不妊治療のお金の話です。
来春の不妊治療の保険適応拡大に向けての事務作業が進んでいるようですね。
「えっ?不妊治療って保険効かないの?」と驚かれている方も多いでしょうね。
実際に治療を始めてみて、病院の支払い明細を見て実感されているのではないでしょうか。
治療を提供している我々が一番、違和感を感じているくらいですから。

保険が効かない理由は、不妊の原因が多岐におよぶこと、調べた結果として原因不明も多いこと、
そして生殖医療の進歩のスピードに保険制度が対応できていないことがあげられます。
ひとつ例にあげてみましょう。不妊治療を大きく変えたイノベーションって何だと思いますか?
答えは超音波診断装置です。
超音波検査は産婦人科におけるIT革命並の激変をもたらしました。
超音波検査が本格的に産婦人科に導入されたのは1980年代。当時の経腹超音波検査は精度も
良くなかったため、胎児の発育の確認が主でした。
現在、主流となっている経膣超音波検査は90年代からのものです。
それまでは基礎体温や子宮頸管粘液などの間接的な検査により“だいたいの排卵日”を予想
してきましたが、まあ当たりませんでした。超音波検査の導入により卵胞の発育が直接肉眼的に
評価できるようになり、不妊治療は大きく進歩しました。

いまや不妊治療には欠かすことのできない超音波検査ですが、自然周期の排卵日を調べることを
目的とした使用は保険が効きません。
「なんで〜?」と思いますが、理由は排卵日の予想のための超音波検査は病気の原因を調べる
場合とは使用目的が違うからです。
排卵障害の人の場合は排卵誘発剤を使用しますので、この場合は病名がつくので超音波検査は
保険適応となります。ただしその場合でも月に2〜3回までと上限があります。

理屈を言われればそれまでですが、タイミング法は不妊治療の最も基本的な治療であるにも
関わらず、保険が認められない現状はどう考えてもおかしいですよね。
超音波検査が臨床の現場に導入されて30年も経過しているのにこの状態なのです。
これって関連各所の怠慢ですよね。

それだけではありません。超音波検査は1回の検査料が5300円もします。
ものの数秒で終わる卵胞計測にしては高額過ぎます。超音波検査は、昔は1台数千万円したため、
検査の点数もそれに見合ったものとなっていますが、現在はモノクロタイプだと200万円程度です。
それなのに点数はアップデートされず、当時とあまり変わっていないのです。

来春の保険適応拡大に期待する声が大きいですが、こういった状況を考えると、今回の保険適応の
拡大が現状に即した細やかな内容になるとは到底思えません。

この点を我々は大きく心配しております。

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2021年8月18日

若者のスポーツ観戦離れが進んでいるそうで、長時間の試合が敬遠される時代になったと
ネット記事にありました。バブル以降、重厚長大から軽薄短小へと時代は移っておりますが、
スマホの普及でさらに加速していると感じます。あらゆる場面で“時短”に触れることも多くなりました。

外来診療でも治療に必要な情報を説明書として紙媒体でお渡しするのですが、様々なネット情報や不安が
入り乱れている中でそれらを網羅して正確かつ丁寧に伝えることを心がけると、マニュアルは分厚くなってしまい、
時代に逆行しているジレンマを感じます。
かくいう私も家電の取説には目もくれず、スタートアップマニュアルしか読みません(笑)。

治療や検査について患者さんから受ける質問事項もほとんどがマニュアルに書いていることばかりです。
質問する側としては書いてある事の確認の意味合いもあると思うのですが、同じ返答の繰り返しに疲れて
ゲッソリすることも多く、「何を伝えるか」より「どのようにして伝えるか」が大事だと日々、痛感しております。
伝える側としては、伝えたつもりでも伝わっておらず、また聞く側にしては、聞きたいことにしか耳を傾けないものです。

とりわけ体外受精の説明書(冊子)は100ページにもおよびます。内容としては10ページも読めば、
あくびが出る退屈なものです。これを熟読するように求めるのも歯がゆいのですが、何か健康上の問題が生じた場合、
「聞いていなかった」と言われても困るので、書かない訳にもゆかない。
しかしそうした問題は全ての人に起こる訳でもないため、かえって不安をあおることにもなりかねない、、、。
情報提供する側として悩みはつきません。
また世の中には色々な方がおられますので、受け取り方も様々です。
そのため可能性が低くても、重大な事象については当事者としては触れておく必要があるとも考えております。

以前、大学病院で研修医が「この検査で死ぬことがあります」と説明して患者さんを泣かせたことがありました。
これは予期せぬ説明だったからでしょう。これは伝え方に問題があったと考えられます。
しかるに飛行機に搭乗するとき機長から「墜落する可能性はゼロではありません」というアナウンスは聞いたことが
ありませんし、乗客が泣き出すこともありません。その可能性のことを乗客は知っているからです。

そういえば以前、家電の取説の冒頭のページに「食べられません」と注意書きがしてあったのをみて
大笑いしたことがありました。何でも伝えれば良いという訳でもありませんね。

伝えたいことが多すぎて、最重要なことも伝わらないとあっては一体何をしているのやらと苦笑します。
当院では現在、こうした観点から患者さん用の説明書やマニュアルの見直し作業に取り組んでいます。
具体的には図式やイラスト、漫画、動画などによる方法を模索中です。

そう言いつつ、いけませんね。このコラムも長文になってしまいました。

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2021年6月9日

「今月ひとこと」のタイトルは、どこへやら(笑)。
かなり久しぶりの投稿です。
   
従来、院内で閲覧できた「私の妊娠報告書」は感染防止のため
現在は手に取ってご覧になることができません。その代わりに
データ化した紙ファイルのホームページへのUp作業が進行中ですので
そちらをご覧ください。
   
さて報告書のコメント欄に「院長はあまり笑わない」という記載が
散見されます。
コロナ禍でマスク着用なので口元の表情が読めないため
目だけで感情を表現することの難しさがあるものの、
笑うことが少ないのは事実でしょう。
まあ「いつもニヤニヤしています」よりはいいかと思っています。
   
別に怒っている訳でも機嫌が悪い訳でもありませんが、
外来診療では「笑わない」のではなく、「笑えない」状況が多いというのが
実情です。
   
例えば流産を繰り返されている方が妊娠された場合
妊娠の始まりは流産の始まりとも言えます。
流産を経験している方の場合、妊娠判定陽性を伝えても笑顔は控えめです。
心配と緊張のため表情が硬いのが見て取れます。
こちらもそれが分かるので、満面の笑みという気持ちにはなりません。
卒業するまで(正確に言うと出産を終えるまで)は安易に「妊娠おめでとう」とは
言えないのです。
   
逆に初めての妊娠を心から喜んでいる方の場合
喜びの対面のはずが、私の無表情に違和感を感じられるかも知れません。
経過が順調でも翌週には流産となっている場合があります。
年齢によりますが20〜40%の確率で流産は起こるのが現状です。
そうした可能性を考えると“笑顔”の「おめでた宣言」は慎重になってしまいます。
   
流産された方の場合
かなりの確率で泣かれます。
苦労の末の妊娠ゆえ、こちらも泣けてきます。
この状況で私がおかけする言葉は無力で支えになっていないかも知れません。
ただただ結果を共有し悲しみに共感するしかできません。
   
妊娠判定陰性が続く方の場合
治療を続ければ可能性があることを伝え、その上で次の治療の提案をします。
しかし十分頑張っている方に“笑顔”で安易な励ましはできません。
患者さんのネガティブな気持ちを逆撫でることにもなりかねません。
気持ちがポジティブに変わるのには時間も必要です。
   
と言った具合に、喜びと悲しみが入れ替わる悲喜こもごもの外来診療において
こちらの感情のスイッチの入れ替えは頻回になり、これはかなり疲れます。
前の流産した方への思いを引きずって、次の妊娠された方の診療に
当たることも多いため、重く険しい表情になっていることも
あるだろうなと思います。
   
できるだけ笑うようにできれば良いのですが、、、
まあこんな状況をお察しいただければ幸いです。

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