不妊治療で行われる血液検査について解説します。なお以下の項目は全て実施する訳ではありません。
LH:黄体化ホルモン FSH:卵胞刺激ホルモン
どんなホルモン?
脳(下垂体)から分泌され、卵胞を発育させ排卵を促す作用を持つホルモンです。
排卵障害の程度や卵巣予備能(老化の程度)を評価する重要な項目です。
検査の注意点
月経周期により変動するため基礎値を測定するためには月経開始3〜5日目に採血を行います。
一方、排卵期のLHの上昇はLHサージと呼ばれ排卵日を推定するのには有用です。
異常値が出たら
FSHの上昇は卵巣機能の低下、すなわち卵巣の老化を意味します。
治す方法はありませんので、妊娠を急ぎましょう。
PRL(プロラクチン):乳腺刺激ホルモン
どんなホルモン?
脳(下垂体)から分泌され、乳汁分泌を促す作用を持つホルモンです。産後の授乳に必要です。
妊娠すれば上昇しますが妊娠と関係なく高値である場合、月経不順、不妊症や流産の原因となることがあります。
まれに脳下垂体腫瘍が存在する場合もあります。
検査の注意点
日内変動があり夜間には上昇し、食事やストレスなどにより容易に変動します。
また薬剤が原因で上昇することがあり、代表的なのは胃薬(ドグマチール、ガスター、プリンペラン)、抗不安薬などです。
異常値が出たら
変動しやすいのでまずは再検査を行います。値によっては脳下垂体腫瘍の有無を確認するため頭部MRI検査を行います。
再検査で高値であった場合には、高プロラクチン血症の治療薬の服用を開始します。
エストロゲン(卵胞ホルモン、女性ホルモン)
どんなホルモン?
卵巣にある卵胞からその発育に伴って分泌されるホルモンです。子宮の内膜を厚くし着床に備えます。
月経時の基礎値については低すぎても高すぎても卵巣機能の低下が疑われます。
検査の注意点
月経周期で大きく変動します。検査する時期によってその持つ意味が変わります。
月経時に採血:卵巣機能の評価
排卵期に採血:卵胞成熟度の評価
異常値が出たら
低すぎる時:別の周期で再検査します。卵巣機能の低下が疑われる時は妊娠を急ぎます。
高すぎる時:別の周期で遺残卵胞の存在を確認し再検査します。卵巣機能の低下が疑われる時は妊娠を急ぎます。
プロゲステロン(黄体ホルモン)
どんなホルモン?
排卵後の卵胞に形成された黄体より分泌され妊娠を維持します。
低いと不妊や流産の原因となります。
検査の注意点
排卵後の黄体中期に測定します。排卵前に上昇している場合は、黄体化非破裂卵胞や早期黄体化が疑われます。
異常値が出たら
変動しやすいので別の周期に再検査します。黄体ホルモンが少ない場合には黄体機能不全の診断となります。
抗ミュラー管ホルモン
どんなホルモン?
卵巣年齢を調べる検査です。卵巣に残っている卵子の数を反映します。
この数値が年齢平均値に比べて低い場合は体質的に元々少ないか、卵巣の老化が早いことが考えられます。
検査の注意点
値が低いからと言って妊娠できないという訳ではありません。
異常値が出たら
高齢の方やFSHが高く卵巣の老化が疑われる方は妊娠を急ぎましょう。
TSH:甲状腺刺激ホルモン
どんなホルモン?
脳(下垂体)から分泌され、甲状腺を刺激し甲状腺ホルモンを分泌させる作用を持つホルモンです。
女性の数%の方に甲状腺機能の異常が見つかります。
甲状腺機能に異常がある場合には不妊症や流産の原因となることがあります。
TSHの上昇は甲状腺ホルモンの低下(甲状腺機能低下症、橋本病)を意味し、TSHの低下は甲状腺ホルモンの上昇(甲状腺機能亢進症、バセドウ氏病)を意味します。
検査の注意点
ヨードを含むうがい薬、消毒液の使用や食品(海藻類)の過食がある人ではTSH値は上昇します。
しばらくの間これらを避けてから再検査します。
異常値が出たら
ヨード過剰摂取があればまずは制限します。また抗サイログロブリン抗体の有無を調べます。
結果を見て甲状腺専門医に紹介となります。
抗核抗体(詳細)
どんなホルモン?
免疫病の有無を調べます。免疫病は不妊症(受精障害)や流産の原因となることがあります。
検査の注意点
若い女性の10%程度が陽性となります。
異常値が出たら
40倍〜80倍 経過観察
160倍以上 合併する自己免疫疾患の検索 抗リン脂質抗体の検査を追加
抗精子抗体(詳細)
どんなホルモン?
精子を不動化させてしまう抗体です。
検査の注意点
変動しやすいので、期間を空けて再検査します。
異常値が出たら
自然妊娠が難しい場合には、人工授精や体外受精を検討します。
風疹抗体
どんなホルモン?
風疹に対する抗体の有無を調べます。
妊娠初期に風疹にかかると、胎児に先天性風疹症候群(難聴、白内障、心臓病)が発症する可能性があります。
検査の注意点
8倍、16倍は弱陽性です。32倍以上は有効です。
異常値が出たら
抗体陰性(8倍、8倍未満)〜弱陽性(16倍)の場合にはワクチンを受けて下さい。
なおワクチン接種後は2ヶ月間の避妊が必要です。