クラミジア感染症は性感染症(STD)の中で最も頻度の高い疾患です。梅毒や淋病とは違い高校生から主婦にまで歓楽街を越えて一般家庭にも蔓延しています。若年層で10〜15%、妊婦で5%、風俗従事者で40%という極めて高い感染率を見ると決して他人事ではありません。社会や生殖能力へ与える影響を考えると深刻です。
クラミジアの症状
初発症状は軽微な事が多く男性で尿道炎による排尿痛、女性で子宮頸管炎によるオリモノの増加にとどまるため発見が遅れます。子宮頸管炎が上行性に波及した卵管炎、そしてさらには骨盤腹膜炎へと進展すると慢性腹痛を自覚したり、症状が強い場合には発熱を伴って入院加療、さらには手術となる場合もあります。不妊症との関連では頸管炎は排卵期のオリモノの分泌を減少させ頸管性不妊の原因となります。卵管炎は無症状でも卵管閉塞や卵管癒着をもたらし卵管性不妊や子宮外妊娠の原因となります。
クラミジアの感染様式
クラミジアの病原体は細菌やウイルスとは違った属に分類されます。トラコーマやオウム病などもクラミジアによる疾患です。性感染症として重要なのはクラミジア・トラコマティスです。
感染様式は感染している者との性交渉(オーラルでも感染)です。性交以外の日常生活で感染することはありません。従って“感染している=うつされた”と考えてください。いつどこで感染したのかといった話は突き詰めてゆくと夫婦のもめネタに発展しますので、外来ではあまり追求しません。
クラミジアの診断
検査法にはクラミジアを直接検出する抗原検査と間接的に調べる抗体検査とがあります。前者はクラミジアの病原体の一部を検出する方法であり、これが陽性であることはクラミジアが存在していることを意味します。この抗原検査ができるのは実際に罹患部位から検体を採取できる場合に限られます。子宮頸部の細胞や尿を用いた検査がこれに相当します。
一方、後者は血液検査により抗体の有無を調べるものです。抗体とは細菌などに感染した際に身体が作り出す免疫ですが、この抗体により感染の有無を判定する方法です。
多くのウイルス感染症では一度罹患すると生涯にわたり抗体が血液中に存在するため、抗体の存在は過去にあった感染を意味します。感染時期を判定するためには抗体をいくつかのグロブリン分画に分けて測定する手法を用いて、現在の感染なのか感染の既往なのかを判定することが一般的です。
しかしクラミジア感染では抗体の分画検査により感染時期の推測を行うことは難しいとされます。
さらに子宮頸管に感染したクラミジアは徐々に上行性に移行するため、頸管部の抗原検査では検出できなくなることがあり判定はより難しくなります。従って、正確な診断には抗原と抗体の両方の検査を組み合わせることが必要です。
二つの検査の組み合わせと、その解釈は以下のようになります(ただしこれは目安です)
組み合わせ | 解釈 | 感染性 |
抗原陽性+抗体陽性 | 子宮頸管での感染があり、さらに卵管などに広がっている可能性がある。 | あり |
抗原陽性+抗体陰性 | 子宮頸管での感染はあるが、そこにとどまる。 | あり |
抗原陰性+抗体陽性 | 子宮頸管での感染はないが、卵管などに広がっている可能性がある。もしくはその既往がある。 | なし |
抗原陰性+抗体陰性 | 現在も過去も感染していない。 | なし |
夫婦でのクラミジア検査
当院では症状の有無にかかわらず、子宮頸管部の抗原検査を実施しています。ただし症状がない場合には検査は自費となります。妻が陽性となった場合には、夫の検査も同時に行います。ただし男性の検査は尿で行うため、採取条件によっては陽性でも陰性の結果になる場合が多くあります。
夫婦どちらか一方が陽性の場合でも治療は双方に行います。治療後に期間を空けて再検査を行い陰性化が確認されるまでは性交渉は避けることになります。
完治を確認しない状態で性交渉をするとピンポン感染してしまいます。
過去に治療歴のある場合でも性交渉のパートナーが変わっている場合には再検査をお勧めしています。
治療方法
クラミジアには有効な治療薬がありその効果はすみやかです。頸管炎であれば7〜10日間の服用で陰性化します。最近では1日服用すれば効果がある薬剤もあります。有効な薬剤はマクロライド系とニューキノロン系であり、前者は妊婦にも使用できます。ただし最近は耐性菌が見られ、一度の服用で治癒しない場合もあります。
抗生剤の服用でクラミジアは消滅したとしても、卵管のつまりや癒着は元には戻りません。感染が判明した場合には、治療後に卵管造影検査を行って通過性を確認することになります。