培養室紹介

私ども、ASKAレディースクリニック培養室の主な業務は、人工授精、体外受精の実施にあたり、患者様の精子、卵子、胚(受精卵)を厳重に管理しながら、適切な処理を行うことです。
業務遂行にあたり、私どもは、①安全性の重視、②不妊治療に対する情熱、③技術力といった3項目に重点をおいています。

① 安全性の重視

不妊治療において、精子、卵子の取り違えは、われわれが最も起こしてはならないミスであります。この取り違えを防ぐために、培養士、一人一人が、常に集中し、細心の注意を払いながら処理を行うことはもちろんですが、実際、それだけでミスを100%予防出来るとは言い切れませんし、患者様としても、このような体制ですと一抹の不安が残ると思われます。
よって、当培養室では、常に複数の培養士を常勤させ、取り違えの起こりうる場面、すなわち、複数の精子、卵子を同時に取り扱う場面に、常に二人の培養士でそれぞれの処置を監視しあうダブルチェック体制をとっています。個々の培養士が細心の注意を払った上で、さらに、ダブルチェック体制を導入することにより、取り違えのミスは限りなくゼロに近くなると思われます。
また、精子、卵子に直接接触する培養液等の安全性につきましては、出来るだけ使用歴史が長く、安定した成績の出せるものを用いています。

② 不妊治療に対する情熱

高度なレベルで治療を行う上で、個々の培養士の情熱が重要なのは言うまでもありません。私どもは、一時でもはやく患者様にご自分のお子様を抱いていただきたいと常に願っています。
私どもの知識および技術レベルを向上させ、いつでも患者様のお役にたてるよう、ミーティングや、患者様ごとの症例検討会を定期的に開催し、お互いの知識および意見を交換して日々の治療に努めています。

③ 技術力

当培養室のスタッフは、大学の研究室で最先端のバイオテクノロジー、バイオサイエンスを学んだ農学部出身者と、医療検査のスペシャリストである臨床検査技師で構成されています。胚培養を安全かつ適切に行うには、両者とも重要な人材で欠けてはならない存在です。両者が手を取り合い、バランスよく1つのチームとして機能することで、より高い医療技術レベルに到達できると考えています。
また、技術レベルの維持に関しては、教育体制が重要となりますが、当培養室では、複数の胚培養士が1人の新人に対し、約2年という月日をかけて、各技術項目をひとつひとつ適切に評価しながら教育しています。このように、教育期間を充分用意することにより、個々の培養士の技術レベルを再確認することになり、当培養室の技術レベルが均質化すると思われます。
ただし、均質化するといっても高いレベルでなければいけませんし、発展性を損なうものであっては意味がありません。私どもは、生殖医療に関する学会に積極的に参加・発表するのはもちろん、最先端の知識・技術にも目をむけ、その習得に対し努力を惜しみません。

培養室での胚培養士の仕事は、精液の検査と処理(人工授精、凍結保存)、卵子の操作(検卵、顕微授精)、受精卵の操作(培養、凍結保存)、データ管理など多岐にわたります。

毎朝7時には出勤しその日の準備に取りかかります。受精卵の培養に休みはないため作業は年中無休です。検体の取り違いが起こらないように安全確認が重要なため、全ての段階において確認作業は2人体制で行われます(ダブルチェック)。

精液検査

一般精液検査では、精液の量、精子濃度、精子運動率、精子正常形態率、直進運動性、総運動精子数、SMI(sperm motility index)、混入する白血球数、赤血球数の項目を検査しています。

精液処理の風景

人工授精や体外受精、顕微授精に使用する精液の処理中は必ず2人のスタッフでダブルチェックを行い、取り違えがないよう安全に作業しています。

検卵風景

体外受精、顕微授精で採卵した卵胞液中から卵子を回収しています。
卵子の成熟度や異常卵の有無が確認されます。
※採卵直後の卵丘細胞に囲まれた卵子

顕微授精風景

顕微授精では卵子の中に精子を注入して授精させます。この際に用いるのは極めて細いガラスピペット(4.5マイクロメートル:1マイクロメートルは1ミリメートルの1000分の1)です。

受精卵

胚移植前の受精卵の最終確認をしています。

培養室では有資格者である胚培養士が配偶子(卵子、精子)や受精卵を取り扱います。肉眼では見えない相手なだけに、その取り扱いには技術と知識、注意力と集中力が必要です。ふだんはあまり皆様にお会いすることができませんので、培養室について少しお話させていただきます。

培養室レイアウトについて

卵子、精子や受精卵を移動させる場合、スタッフ同士の動線がぶつからないように通行スペースを作るなどの作業環境を整えることで、効率化と安全性を確立できるように配慮しています。

培養室の透明化

培養室は2階のセキュリティエリア内にあります。全く窓が無い構造のため幾分息が詰まりますが、十分な広さが確保されているので気持ちよく作業できます。

まず手を洗浄消毒して培養室前室に入ります。ここは培養室への緩衝ゾーンであり、また患者様の情報管理と物品のバックヤードの機能があります。ここからドアを開けると一目で培養室が見渡せます。死角を作らない構造のため培養士がお互いの作業を見守り連携をとれるようにしています。

精液検体やカルテの受け渡しなど外部とのやり取りには、パスボックスを通じて行うことで培養室内の気密を保つことができます。ご希望があればこの小窓から培養室内の様子を見学していただくことも可能です。

クリーンルーム

採卵や胚移植などを実施するレディースルーム、卵子や精子の検査、受精卵の培養を行う培養室、培養データをまとめる培養室前室はクリーンルームに設計されています。

清浄度

クリーンルームは一定の清浄度を保つため陽圧に管理されており、外部からの粉塵が内部に流入しない構造になっています。中で作業するスタッフは、マスクとキャップを身に着けることにより、髪の毛なども落ちないよう配慮しています。

温度管理

室内温度は年間を通して25℃になるように調整されています。そうすることで培養器外での作業でも、卵子や受精卵に与えるストレスを最小限にしています。

照明

卵子や受精卵への影響を考え、照明は全て紫外線や赤外線を放出しないLED電球を使用しています。これにより従来は照明を抑えていた培養室内を明るくすることで、安全性が高まり作業効率を上げることにも貢献しています。

培養器(インキュベーター)

受精卵の培養を行う培養器は体内環境を再現するために37℃、酸素濃度5%、二酸化炭素濃度6%に設定しています。(活性)酸素には細胞に対する毒性があるため、培養器内の酸素濃度は空気中より低く設定されています。
※培養器(上段)凍結タンク(下段)

クリーンベンチ

採卵した卵子や胚移植する受精卵、精液処理などを行うテーブルです。高性能エアフィルターを通した空気をブローアウトすることにより外部からの異物混入を防ぎ、内部を清潔に保っています。

凍結タンク

内部は液体窒素(-196℃)で満たされており、凍結された受精卵や精子を保存しています。
タンク内の液体窒素を補充する限り、半永久的に保存しておくことが可能です。

顕微システム(マニュピレーター)

卵子と精子を授精させる顕微操作を行う機器です。免震装置に設置された倒立顕微鏡とマニュピレーターと呼ばれるマジックハンドを使い、卵子への精子注入などの微細な作業を行うことができます。

OCTAX

受精卵の着床を促す孵化補助法(assisted hatching : AH)を実施するための装置です。OCTAXシステムでは、レーザーを照射して孵化補助を行う(laser assisted hatching : LAH)ことが可能です。

バックアップ電源

落雷や災害などで停電すると培養器の環境を維持することができなくなります。短時間であれば問題ありませんが復旧の見込みがない場合、受精卵を凍結保存するなどして影響を回避させねばなりません。それまでの時間稼ぎとして当院では非常電源システムを導入しています。

窒素ガス発生装置

培養器内は酸素、二酸化炭素、窒素ガスで構成されています。その内、窒素ガスは最も消費が多いため頻回にガスボンベを交換する必要があります。何らかの理由で共有が滞った場合は、培養環境を維持することができなくなります。当院では空気から窒素ガスだけを取り出す窒素ガス発生装置を導入しているため常時、安定したガス供給を行うことが可能となっています。

太陽光発電システム

当院にはソーラー発電と蓄電システムがあり、停電時にも採卵などの処置を行うことが可能です。

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