帝王切開術で出産された方がその後に不妊症になるケースが散見されます。
手術の際に切開した子宮の傷(切開創)の治りが不完全であると、数ヶ月を経た月経再開後もその傷口から微量の出血が続き、それが子宮内に溜まって妊娠を妨げるのが原因で、このような病態を“帝王切開術後瘢痕(はんこん)症候群“と呼んでいます。
胎児の頭が産道に深く侵入した状態、つまり分娩の途中で緊急に行われた帝王切開術の場合、子宮筋の切開部位の完全な修復は難しいことがあります。“一度、帝王切開をしたら次も帝王切開“ と言われる理由は不完全に治癒した傷が陣痛により裂けてしまう”子宮破裂“のリスクがあるためです。
この傷の治りには個人差があり、きれいに修復されている場合も多いのですが、そうでない場合もあります。こうした子宮を超音波検査で見ると、子宮内部から子宮表面に向かってクサビ型に傷が開いているのが分かります。この部分では排卵に向けて子宮内膜が増殖するにつれて出血が起こります。出血は微量のため、膣外に出て来る頃には帯下に混ざって茶色(コーヒー色)に変わっています。この出血は排卵後には消えてゆくため、単に月経が長引いているだけと思っている方も多く、産婦人科を受診されません。
子宮内に出血がたまる場合、精子はこの血液内を泳ぐことになり、運動性が低下します。また排卵後にもたまっている場合、受精卵の着床を妨げる要因となります。
“帝王切開後、数年経っても妊娠しない“
“月経が終わってからもコーヒー色の帯下が続く”
“出産後、生理痛が強くなった”
これらの症状がある方はご相談ください。
瘢痕がある方でも自然に妊娠される場合も少なくないと思われます。
全ての場合で治療が必要とは限りませんが、これが原因と考えられる方にはいくつかの対策があります。
手術療法
瘢痕となった部位を切除して、改めて縫い合わせる手術です。
子宮内洗浄と人工授精
排卵日に子宮内に溜まっている血液を洗浄吸引した後に、精子を子宮内に注入する方法。
体外受精と凍結受精卵移植
凍結保存された受精卵を子宮内に出血が溜まっていない状態を見計らって移植する方法。
帝王切開術後瘢痕症候群は妊娠を望まなければ不正出血が煩わしいだけで、子宮癌検診さえしておけば健康上の問題になることはありません。
不妊症との関連については、その発生率など全容がつかめておらず治療法も確立していないのが現状です。
症状や程度には個人差があるため、不妊の原因となっている場合には個々に治療法を検討するしかありません。