重要なお知らせ 2023/01/13
生殖医療に用いられる薬剤の不足とそれに対する対応
コロナ禍や国際紛争による原料の調達の不安定化は製薬業
にも影を落とし、さらに製薬メーカーの生産体制不備など
の影響を受け、国内で様々な薬剤が不足していおります。
とりわけ不妊治療は昨年4月に保険適応が拡充された事と、
メーカーの生産体制がそれに追いついていないことから、
昨年夏頃より薬剤の不足が深刻化し、治療に用いられる
全ての薬剤が不足しております。
先日、老舗製薬会社より不妊治療で最も重要な薬剤である
hCG製剤の生産を終了するとの告知がありました。
突然であり、理由も分かりません。他社の同種薬剤は供給
調整、代替品も時期を同じくして供給停止となっているた
め、今後不足が深刻化することが想定されます。
現在、当院には在庫が潤沢にありますが、生産体制が改善
しなければ初夏頃には問題が顕性化する可能性があります。
こうした状況を勘案し、より多くの方に治療を受けていた
だくため、当院では以下の様に
対応することとしました。
1一般不妊治療では薬剤の使用は必要最小限とします。
2 ART(体外受精や顕微授精)では、状況に応じて薬剤の
使用方法を変更します。
各治療法の対応は以下のとおり
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□ART(自費診療で治療を受ける方も対象です)
【採卵を行う人】
現在、排卵誘発剤(内服剤、注射剤)、GnRHアゴニスト
製剤、GnRHアンタゴニスト製剤は確保できていますが、
余裕はありません。今後、一般不妊治療からARTにステップ
アップする方が多くなると対応できなくなる可能性があり
ます。
薬剤不足が深刻化した場合、予想される対応
・新規にARTにステップアップされる方を制限する可能性
があります。
・現在、治療中の方におきましても治療回数の制限や、
治療方法(刺激方法)の見直しをする可能性があります。
【胚移植を行う人】
現在、黄体ホルモン剤(膣錠)は確保できておりますが
余裕はありません。
2023年1月より40歳未満の方を対象に下記の内容で制限
を開始します。
A採卵後の初回の胚移植が不成功に終わり、次の周期で
移植をする人
2周期連続しての胚移植を制限します。1ヶ月あいだを
開けてから治療再開します。
注意)採卵に続いて翌月(もしくはそれ以降)に胚移植
を行う場合には制限は行いません。
対象となるのは、2回目以降の胚移植です。
採卵 → 融解胚移植 → 休み(ただし一般治療は可能)
→ 融解胚移植
B凍結保存されている受精卵で2人目(3人目)の治療をする
人
2周期連続しての胚移植を制限します。1ヶ月あいだを開けて
から治療再開します。
融解胚移植 → 休み(ただし一般治療は可能)
→ 融解胚移植
薬剤不足がさらに進行した場合に実施する対応
・治療周期の途中から使う薬剤が変更となる可能性があり
ますが、この場合、妊娠率への影響はありません。
・黄体ホルモン剤の使用を極力行わない、自然排卵周期
での胚移植に切り替える可能性があります。
なおこの場合、自然排卵が前提となりますので、
排卵障害のある人は適応となりません。
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□一般不妊治療(タイミング法)
原則として自然排卵周期でのタイミング指導とします。
排卵障害のある方に対しては従来通り排卵誘発剤を使用
します。
□一般不妊治療(人工授精)
タイミング法に比べてより排卵とシンクロさせる必要のある
人工授精ではhCGを使用することが多くなります。
当院は従来からhCGの使用に依存することなく、自然に排卵
する時期に合わせた人工授精を実施してきましたので、
hCGの使用は必須ではないとの立場です。
しかし排卵誘発剤を使用する場合(特にクロミッド)には、
排卵が遅れる事もあるため在庫があるうちは、従来通り
注射を併用します。
また今後はクロミッドに比べて排卵の遅れが少ないレトロ
ゾール(フェマーラ)やシクロフェニル(セキソビット)
を使用してゆきます。